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インパクト投資と政府の失敗

2012/05/16 06:35

 

 「市場の失敗」ならぬ「政府の失敗」ばかりやっているぐらいなら、こんな分野もあるじゃないかーーとの思いです。

 

 【日曜経済講座】ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇 「米政府の失敗」

 ■高まる「インパクト投資」熱

 「ウォール街の銀行は何をやっていたのだ」。壇上で白髪の男性が拳を突き上げると、熱気に包まれたニューヨークっ子たちは「そうだ!」と大歓声で応えた。

 男性はバングラデシュでグラミン銀行を設立したムハマド・ユヌス氏。少額の事業資金を融資することで、貧困層の勤労意欲と生活の質を高めたマイクロ・ファイナンスの生みの親。ノーベル平和賞受賞者でもある。

 

 

社会問題解決にも

 4月26日、マンハッタン。米ハルト大は、貧困など社会問題の解決を目指すビジネス企画書を世界中の大学生に競わせるコンペを開催した。入賞者はクリントン元大統領から表彰され、企業スポンサーから計100万ドル(約8千万円)の寄付を受ける。

 審査員の一人として招待されていたユヌス氏によると、「今日ほど企業の使命が問われているときはない」。今回は住宅、教育、エネルギーの分野でそれぞれ3校の大学が受賞したが、コンペの企業スポンサーは受賞した企画への投資を検討するという。

 世界では20億人もが給水、医療といった人間としての最低限のサービスを受けていない。2億5千万人の子供が教育を受けられず、250万人が毎年亡くなっている。

 貧困は米国の社会問題でもある。4700万人が健康保険を持たず、2500万人が貧困水準で暮らし、1500万人が非雇用者だ。

 低所得のシングルマザーを支援するNYCファンド、アフリカ系電話オペレーターをそろえたライラ・テレサービシズ-。公共性を帯びた投資熱が米国で高まっている。

 こうした資金提供はインパクト投資といわれ、今や500億ドル規模に拡大した。マイクロソフトを創業したビル・ゲイツ氏のゲイツ財団やロックフェラー財団などの篤志家的な投資家がお金の出し手だ。

 インパクト投資は金融投資と慈善活動の中間に立つ。株式、債券などを用いて投資リターンと社会問題を解決することで「二兎(にと)」を狙う投資手法の一種である。たばこや軍需産業を手がける企業の株式を保有銘柄から外すSRI(社会的責任投資)とは逆に、「投資を通じて社会を変革する」という積極性がモットーだ。

 

 

 例えば、農産物栽培のサプライチェーンに強制労働などの問題がないかを検査する米トランスフェア。コーヒー・チェーンのスターバックスや食品小売りの米ホールフーズ・マーケットが顧客だ。

 コーヒー豆やバナナなどが合法的かつ倫理的な手法で栽培・販売されたことに第三者機関としてお墨付きを与えるのが仕事。農産物の小売価格の1~2%相当をライセンス料として徴収し、その資金を栽培者の生活保護や子弟の教育支援に充てるのが社会への「インパクト」部分である。

 トランスフェアをインパクト投資家として支援してきたのが米フォード財団や米国の富裕層だ。トランスフェアが発行した利回りで3%程度の債券を購入し、トランスフェアの成長を支えた。

 足元、インパクト投資は資産運用の手段としても注目されている。JPモルガン・チェースなどによると、今後10年間で最大1兆ドルの新規投資が実施される可能性があるという。

 インパクト投資の多くが教育といったマクロ経済の影響を受けにくく、株式といった伝統的な金融商品との相関性が低い。つまり、ポートフォリオの銘柄としては分散機能を持っているのだ。

 また、欧米日用品会社は、環境問題を意識する消費者の需要をくみ取るために、積極的に非政府団体(NGO)などを買収している。インパクト投資はM&A(企業の合併・買収)というかたちでも活性化している。

 そもそも外部効果といった「市場の失敗」を補う機能を持っていたのが政府だった。だが、財政難で米国は教育や医療といった従来の公共機能を外注しており、インパクト投資の拡大は「政府の失敗」を象徴する。

課税優遇など提供

 米政府は「政府の失敗」を認識しており、インパクト投資を受ける団体には課税優遇制度を受けやすい仕組みを提供している。政府支援を背景に、市場ではアキュメン・ファンドといったインパクト投資が専門の投資会社が出現し、インパクト投資の格付け機能を担うGIIRSやデータ・指数を提供するIRISなど業界基準が整備され始めてきた。

 大きな政府からの脱却は、他山の石。インパクト投資促進という形で、債務大国の日本も非効率な公的金融を民間に委譲する仕組みを作ったらどうだろうか。

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ミルケンとクリントン

2012/05/10 06:16

 

 弊コラム、複眼ジャーナル@NYCの最新版です。

 

マイケル・ミルケンの生き方

 

5月2日午後、西海岸ロサンゼルスの高級住宅地ビバリーヒルズに前触れもなくビル・クリントン元大統領が来訪した。米シンクタンクのミルケン研究所が開催した年次総会に参加するためだ。500人はいたであろう観衆から万雷の拍手を受けて壇上に上がった主賓は、こう切り出した。

 「14年前から招待を受けていたのですが、忙しくて断り続けていました。しかし、早起きしたら来られることが分かったので、今回は受けたのですよ」


ご存知クリントン元大統領


 ユーモア好きなクリントン元大統領らしい言い回しである。本当はちゃんとした理由があるのに。

 ミルケン研究所を創立したマイケル・ミルケン氏(65)といえば、1980年代の米ウォール街を代表する超大物バンカーだ。当時の年俸は10億ドル。現在のドル円相場で換算しても、800億円相当という金額だ。

 

パネルを司会するミルケン氏
 


 ベンチャー企業支援から企業の買収合戦まで、産業金融の基盤となる社債市場を築いた功績から、金融界では、米国の産業革命の立役者だったJ・P・モルガン以来の影響力といわれている。

 しかし、金融ブームの寵児(ちょうじ)となったミルケン氏は罪を犯した。情報開示義務などを定めた米証券取引法に違反したとがで、90年代初頭に22カ月ほど服役し、11億ドルを投資家や米政府に支払った。

 当時検察官だったジュリアーニ前ニューヨーク市長が、政治的野心からウォール街の大物を次々と摘発した大捕物の一環だった。ミルケン氏が徹底抗戦したため、ジュリアーニ前市長はRICO法というマフィアなどの組織犯罪を取り締まる法律を適用し、ミルケン氏の親族をも訴えた。

 元犯罪者が主催するイベントなんて-。クリントン元大統領の心情を忖度(そんたく)するならば、これまでは自身のブランドを守るためにミルケン氏からの誘いを断り続けてきたのだ。

 では、なぜ元大統領は翻意したのだろう。

 実はミルケン氏、釈放された93年から慈善家に転職する。母親が乳がん、自身も前立腺がんを患ったこともあり、がん医療を筆頭に、教育、食糧、エネルギーとさまざまな分野での研究に、推計で20億ドルとされる私財から100万ドル単位で寄付金を投じ続けてきた。2004年には米フォーチュン誌から「医療を変えた男」と評されている。

 ミルケン研究所が開催する年次総会は、今や世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)と並ぶ高い評価を受けている。ミルケン氏が得意とする金融から都市政策までテーマは多々あるが、スピーカーとして招待されるのはビジネスマンにとって最高の名誉だ。

 セカンドチャンスを与える寛容な米国文化のおかげで、ミルケン氏は表舞台に復帰した。だからこそ、同じく慈善活動に力を入れるクリントン元大統領が同志と認めたのだ。

 時代も味方した。08年のリーマン・ショック後、持てる者の社会責任である「ノブレス・オブリージュ」が米国社会で意識され始めた。ミルケン氏が再評価されるのも、金融危機を引き起こしたウォール街の張本人たちが、80年代と違って誰も摘発されず大手を振って歩いているからだ。

 会議終了後、ミルケン氏に金融の技術革新が米国社会に果たした役割を聞きに行くと、「能力があれば資本がついてくる社会は頑張れば報われる。雇用創出に役立ったね」。こぼれそうな満面の笑みにはっとした。(ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇)
 

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米国政治にはびこる迎合主義

2012/05/07 06:57

 

 折角なので「ぶら下がった」際に写真を撮ってみました。米国では外人記者でも突撃取材が可能です。一方で、記者クラブだってちゃんとありますけど。。

 

 【複眼ジャーナル@NYC】米国政治、はびこる迎合主義 ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇

 

 日本は“ぶら下がり”取材の評判が悪いと聞くが、米国では当たり前だ。会見が終わると記者たちはVIPに群がり、SPは一歩引く。公式見解の裏側を探る取材技術であるし、独自の発見があるので、筆者もこの慣習を重宝している。

 最近も共和党の大物議員たちに“ぶら下がって”みて、「おや?」と気がついた。経済に関する限り、民主党との融和を示唆する発言が目立つのだ。

 「ウォール街占拠運動は統制が取れていないかもしれないが、『金融機関が不公平に稼いでいる』という国民の不満を代弁しているかも」(上院金融委員会に所属するマイケル・クレイポ議員)

マイケル・クレイポ議員

 

 「社会保障費の見直しは必要だが、米国政府の債務残高が国内総生産GDP)に占める比率は欧州よりずっと低く、政策余地がある」(債務削減に関する超党派特別委員会のロブ・ポートマン上院議員)

ロブ・ポートマン上院議員

 

 微妙な言い回しではあるものの、共和党は自由市場主義と「小さな政府」が金科玉条だったはず。これでは民主党議員の発言とさほど変わらないではないか。

 共和党の大統領予備選でリードするミット・ロムニー候補からして融和路線を歩んでいる。地球温暖化問題や2008年の金融危機で実施した銀行救済など、「大きな政府」的な政策にも理解を示す。大統領に選ばれても、上場企業を規制でがんじがらめにした企業改革法を温存するという。

 ただ、融和路線は保守側だけの専売特許ではない。目下、財政政策評議会(FPI)といった市民団体の間でやり玉に上がっているのが、民主党系のニューヨーク州知事、アンドリュー・クオモ氏の豹変(ひょうへん)ぶりだ。

 批判の対象は議論中の税制改革で、クオモ知事は「低い税率など企業の課税回避という抜け穴を温存した」(FPI)。州司法長官時代、ウォール街の銀行を相手に訴訟を繰り返していただけに、リベラル陣営が失望しているわけだ。

 解はニューヨーク救済委員会(CSNY)なる組織にあった。CSNYは本来ならば共和党が強いビジネス界の圧力団体で、昨年のロビー活動の経費は1200万ドル(10億円弱)と州のトップだ。ニューヨーク公共利益調査グループによると、その出費の多くはクオモ知事対策に使われた。知事は中央に打って出る野心を持っているとされ、今のうちに資金力のある支持基盤を引き寄せたいのだ。

 融和に活路を求めるのは米国政治の最新潮流だ。オバマ大統領が08年の民主党予備選で強敵ヒラリー・クリントン氏に打ち勝ったのは、共和党の強い州を狙い撃ちしたためである。保守穏健派の「スイング・ボート」(浮動票)と、全くの中道である「トス・アップボート」(最後まで行方が分からない票)を取り込んだ戦略が奏功したのだ。

 人工中絶問題といった保守・リベラルの線引きがハッキリしている分野は政策が自己目的化しているが、税や財政などの経済政策は景気を改善させる手段にすぎない。だからこそ迎合主義の道具になりやすい。

 米RCPの世論調査によると、共和党の大統領選候補がギングリッチ氏だとオバマ大統領に13ポイントの水をあけられ、サントラム氏で9ポイント。だが、ロムニー氏だと5ポイント差と善戦する。

 迎合主義に勝つには迎合主義。どの国でも政治の本質は似たり寄ったりなのだ。

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「インサイダー取引」という名の米国病

2012/04/26 09:15

 

 「複眼ジャーナル@NYC」なる産経朝刊コラムを隔週水曜日で連載することになりました。小職の見聞を素地にして、経済に限らず、米国の政治社会を描写できれば、と思っています。

 拙稿で紹介するバウアー氏は現在インサイダー取引の愚かさを訴える講演会に相次いで登場しています。司法取引または減刑嘆願が目的なのですが、判決前の人間がこうやって表舞台に登場するのは異例のことだと思いました。

 

 

マンハッタン内で講演するバウアー氏(中央)

向かって左側はヤメ検の顧問弁護士

 

インサイダー取引」という名の米国病

昨年4月6日朝5時、ニューヨーク市マンハッタンに住むギャレット・バウアー氏は、米連邦捜査局(FBI)捜査官にたたき起こされた。友人との電話記録について聴取したいので、ニューヨークの隣州ニュージャージーにあるFBI支部への出頭を求めるという。

 「頭の中が真っ白になりました」(バウアー氏)。バウアー氏はシャワーを浴びたかったそうだが、同氏の自殺を懸念した捜査官が許可した身支度は歯磨きだけだった。

 この日、バウアー氏のアパートには20人のFBI捜査官が家宅捜索に入った。理由は、買収など発表前の企業の内部情報を元に株式などを売買するインサイダー取引を犯した疑いだ。

 バウアー氏は「デイトレーダー」と呼ばれる自宅での短期株式売買をなりわいにしており、この十数年来、100万ドル単位で株式を売買していた。金融のセミ・プロとなったバウアー氏に目を付け、悪巧みを持ちかけたのが、昔からの友人だった。弁護士が友人を介してインサイダー情報をバウアー氏に教えるスキームだ。

 だが、FBIは3者の電話回線を盗聴。友人を先に逮捕して、共謀を認めさせた。起訴状によると、バウアー氏が問われる違法利得は約3700万ドル(約30億円)にのぼる。

 4月18日のニューヨーク市内。法曹関係者が集う米法務協会(PLI)の講演会には、米証券取引委員会(SEC)、司法省、商品先物取引委員会といった経済事件を取り扱う捜査機関の局長が勢ぞろいしていた。幹部らが訴えていたのはインサイダー取引の撲滅だ。

 2001年の米中枢同時テロ後、米捜査機関は大規模な人員をテロ担当に異動させたが、昨年の国際テロ組織アルカーイダ指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者殺害で、ホワイトカラー犯罪の担当者が徐々に旧来の職場に復帰し始めた。

 「金融危機を防げなかった」と批判された捜査機関などが名誉挽回を狙っているのに加えて、大統領選を意識するオバマ政権の政治的思惑もある。違法なインサイダー取引“狩り”は流行なのだ。

 FBIが現在捜査中のインサイダー取引は約200件。捜査機関は大手投資会社のガリオンを中心とする「インサイダー情報網」を一網打尽にした余勢を駆って、米国を代表する投資銀行ゴールドマン・サックスの元取締役も訴追した。マイケル・ダグラスが演じた映画「ウォール街」の無法な1980年代をほうふつとさせるが、倫理観の欠如は何もウォール街だけではない。

 今月初め、オバマ大統領は「株式法」と呼ばれる新法に署名した。株式法は議員や議会職員による株式売買の情報開示を強化する内容だ。

 きっかけは、昨年末に明らかになったバッカス下院議員(共和党)に対するインサイダー取引疑惑だった。銀行支援など政策決定に先回りして売買し、利益を上げた疑いがもたれた。

 引退に追い込まれた共和党のフリスト元上院議員をはじめ、議員のインサイダー取引疑惑は尽きない。

 「米国中でタガが外れていたツケ」とみけんにしわを寄せるバウアー氏は目下、5月1日に1審判決を待つ身分。44歳の元トレーダーは9年から11年の禁錮刑を覚悟している。

 公も私も。インサイダー取引は全米を覆う疾患なのだ。(ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇)

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仏大統領選とイスラエルの合理性

2012/04/23 11:54

 

 イスラエルの政治経済を勉強しようと市内のセミナーに出ました。恩讐を超えろ、といったセンチメンタルな議論を予想したのですが、余りにもイスラエル人が合理的な議論をしているので驚きました。

 

 

 

 一方で、日曜日に開始したフランスの大統領選。有力候補のオランド前第1書記の精神は美しいと思いますが、理想主義が強すぎると感じました。オランドの政治公約は背伸びしすぎです。http://francoishollande.fr/le-projet

 

 ただ、現職のサルコジ大統領は日本を愛しすぎてしまった前職のシラク前大統領と差別化するために、日本軽視の姿勢のようです。複雑な思いで下記の原稿を書かせて頂きました。

 

【ビジネスアイコラム】市場信認制度を否定する仏と欧州

 21日土曜日。ニューヨーク市内のセントラルパークに面した瀟洒(しょうしゃ)なフランス総領事館は、朝8時から夜8時まで仏大統領選の在外投票所となっていた。

 仏大統領選は22日が第1回投票だ。現職のサルコジ大統領と最大野党の社会党候補、オランド前第1書記の一騎打ちとなっている。

 ニューヨークに住むフランス人の大半は大企業からの駐在員なので、サルコジ大統領支持者が多い。彼らは「社会保障増大だけでは『真面目に働いたら損する』という意識が強まる」「財政を支える経済的に成功した層が課税圧力で国外に逃げてしまう」と話す。

 だが、欧州危機による経済停滞で本国ではサルコジ大統領の分が悪い。「今こそ変化を」「希望を与えたい」と米オバマ大統領を意識したオランド氏の主張が大衆受けしている。

 選挙公約の主眼は経済復興だ。真っ先に出てくるのが中小企業支援で、産業預金通帳を国民に持たせて中小企業を優先する資金網を確立し、優遇税制を導入する。公共投資銀行を設立したうえ、鉄道、電力、郵便局など国有企業に保有する株式比率も維持する。ベンチャー企業を除いてストックオプションも禁止だそうだ。日本の民主党に酷似した政策が並んでいるが、資本主義を敵視する風潮は仏に限らず、欧州全体の時流だ。

 その最たるものが、欧州連合EU)が今年11月から適用する市場取引規定の中核をなす、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)規制である。

 ポイントは、ヘッジでないCDS取引を原則禁止し、対象にEU政府が発行する国債を加えた点。「EU加盟国の国債を持っていない投資家はCDSだけを購入して国債利回りの上昇に賭けてはならない」という趣旨である。債券の利回りスプレッドよりも格付け動向との相関性が高い、最も「信用力」を反映する金融商品としてCDSが活用されているのに、だ。

 イスラエル・ソサエティが市内で15日開催した講演会に登場した著名エコノミストのイーラン・ヤシブ氏は、高成長を続けるイスラエルですら格差問題が生じている実態を紹介した。だが、パネルとして参加したイスラエル人は誰一人として、市場規制を訴えなかった。むしろ議論されていたのは、経済的に恵まれないユダヤ教超正統派やアラブ層が自助努力で成功をめざすように仕向けるインセンティブの仕組みだ。

 フランスが傾きつつあるのは、透明な国債価格という信認制度の否定だ。オランド政権が成立すれば財政均衡が遠のく可能性が高いが、仏国債を裏付けにしたCDS取引を規制してしまえば、利回り上昇といった価格機能による政策評価が難しくなる。為政者は、奇麗事を並べた政治公約を審査する市場の通信簿機能が怖いのだ。(産経新聞ニューヨーク駐在編集委員 松浦肇)

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ピュリツァー賞の発表会見と不可逆的な潮流

2012/04/18 09:32

 

 ピュリツァー賞の発表会見に行ってきました。今回受賞したほとんどの記事がその後の行政見直しや事件の調査につながった発掘型の記事で、青いと吐息にある米国ジャーナリズムが面目躍如を果たしました。国内部門を受賞したフィラデルフィア・インクワイアラーは破たん手続きを経た経験があり、最大手のニューヨーク・タイムズといえども業績低迷に苦しんでいます。

 

 

 そうはいっても、毎年会見に出ている小職としては不可逆的な潮流を再確認した次第です。以下が見聞記事です。

 

米国ジャーナリズム 「ウェブ台頭」「原点回帰」が融合 ピュリツァー賞

 【ニューヨーク=松浦肇】米国ジャーナリズムの最高峰であるピュリツァー賞の受賞者が16日発表され、インターネットニュースのハフィントン・ポストとポリティコが受賞し、ネットメディアが3年連続で受賞する快挙を演じた。伝統的な事件・災害報道にソーシャルメディアなどを駆使した地方紙も受賞。米ジャーナリズムに「ネット台頭」と「原点回帰」という2つの潮流が融合していることを印象づけた。

 ピュリツァー賞は2009年から、インターネットなど紙媒体でない記事にも受賞資格を与えたが、2社以上のネットメディアが受賞するのは初めて。

 ハフィントンは、イラクアフガニスタン戦争で負傷した米兵が直面するPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの実態を報道し、国内報道部門を受賞。ワシントン報道で定評のあるポリティコは、医療制度改革からアラブの民主化運動まで国内外の政治問題に対する風刺画が評価された。編集漫画部門は従来、紙媒体の独壇場だった。

 既存メディアの記事を転載・再編集していたネットメディアだが、慈善家の資金支援もあり、既存メディアのお株を奪う調査報道が活発化。ニューヨーク拠点のプロパブリカが10、11年と連続受賞している。

 一方、昨年4月に米南部アラバマ州などを襲った竜巻の被害報道で同州のタスカルーサ・ニューズ紙が速報ニュース部門を受賞。伝統的な災害報道に、短文投稿サイト「ツイッター」など「ソーシャルメディアを駆使したリアルタイムの報道」が評価された。同じく地方紙のフィラデルフィア・インクワイアラーは、子供間の暴力事件を報じて公益報道部門で受賞。記事に加えてウェブサイトにおけるビデオ映像が評価され、ネット上のコンテンツが報道の担い手となった時流を印象づけた。

  ピュリツァー賞事務局長のシグ・ギスラー氏は「ジャーナリストは社会の番犬。ピュリッツアー氏も満足しているはずだ」とコメントした。

 

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民主党系FRB副議長がオバマ大統領支援?

2012/04/17 02:19

 

 リスクオンという言葉が年初から流行っていましたが、相場は足下、短期調整のようです。。

 

【ビジネスアイコラム】欧州版金融制度改革法が必要な理由 松浦肇

 国際通貨基金IMF)のショーン・ヘイゲン法律顧問は最近ニューヨークを訪問し、法曹関係者を相手にオフレコ懇談会を主催した。同会合の参加者によると、「欧州危機再燃を防ぐためには、4つのインフラ設置が必要だ」とヘイゲン法律顧問がEU欧州連合)側に主張しているという。

 まずユーロ通貨圏の単一銀行監督機関。次に、銀行破綻処理と預金保険、それぞれを統べる組織が必要だそうだ。最後は信用収縮対策。

 要約すると、つまり「(2008年の金融危機の反省から米政府が制定した)米金融制度改革法の欧州版を策定しろ」と要求しているのに等しい。

 11日の米金融市場では6日ぶりに株価が反発した。材料は、講演でニューヨークを訪問していたジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会FRB)副議長が欧州危機の再燃を意識して、「あくまでも仮定の話だが、連銀は追加的な資産購入(金融緩和)の準備はある。雇用確保とインフレ抑制を達成するためなら、どんな手段もとる」とした発言部分。量的緩和第3弾(QE3)の観測が再浮上した。

 春先からギリシャ不安が和らぎ、米株式市場では12倍だったPER(株価の1株利益倍率)は今や14倍。過去5年間の平均13.8倍を超え、過去10年平均の14.8倍に迫っている。ブル・ベア(強気・弱気)指数のスプレッドも年初来最大となっていた。

 だが、ヘイゲン法律顧問、イエレン副議長をはじめとする米国の金融インサイダーの目から見ると、まだまだ世界経済は脆弱(ぜいじゃく)に写るようだ。中でも、彼らが気にしているのは、ユーロ圏におけるソブリン・リスクと金融機関のシステミック・リスクの相関性上昇だ。

 昨年11月から今年2月までECBは欧州銀に1兆ユーロ以上の資金を供給したが、同時にイタリア銀、スペイン銀も巨額の自国国債を買い増した。いってみればECBが民間金融経由で財政難国家をファイナンスしているのが実情だ。

 だが、スペインイタリアも経済のファンダメンタルズ(基礎条件)に改善の気配が見られない。スペインの場合、足元の失業率は23%で今年の成長率は1.7%にとどまる。市場では銀行と財政の共倒れが心配されている。

 政治コンサルティング会社ストラテガスのダン・クリフトン氏によると、「現役の大統領が2期目をかけた大統領選では、8月まで上昇相場が続く」のが歴史的データ。「現役の大統領が選挙対策でリフレ的な政策を約束するうえ、連銀が金融緩和をほのめかして側面支援する」からだという。

 そういえばイエレン副議長はガチガチの民主党寄り思考の持ち主だ。欧州も米国も中央銀行頼みの綱渡りが続いている。(産経新聞ニューヨーク駐在編集委員)

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フェースブックの企業統治

2012/04/13 09:06

 

 時代の寵児なので何をやってもメディアにチヤホヤされています。ベンチャーのお値段は計算が難しいと思いますが、ちゃんとプロセスを経ているのかな、と思いました。

 それにしても、「言い値」と「いいね」を引っ掛けて見出しにとった整理さんのセンスは良かったです。

【外信コラム】アイ・ラブ・ニューヨーク 買収価格“言い値”?

 オリンパスを筆頭とする日本の企業統治の不透明さについて、米国人のベンチャー経営者から質問攻めにあった。悔しかったので、「米国企業統治だって」と反論してみた。

 やり玉にあげてみたのが、株式上場に沸くインターネット交流サイト(SNS)最大手のフェイスブック。このたび、スマートフォン(高機能携帯電話)向け写真共有アプリのインスタグラムを10億ドル(約810億円)で買収することを決めたが、その意思決定過程が不透明だ。

 まずは値段。買収決定の前週にベンチャー投資家が算定した価格は5億ドル(約405億円)。たった1週間で倍増したわけだが、事業会社買収の肝になるシナジー(相乗効果)をどのように計算したのだろうか。

 買収は、ご近所さん同士の経営トップ2人で決めたという。フェイスブックの経営者としては、買収価格をなるべく安くするのが仕事なのに、投資銀行などプロの仲介者を経由していない。3千万人を超える会員を抱えるとはいえ、インスタグラムは創業18カ月、社員も10人規模。ならば、念入りに技術や資産を査定するのが経営者の義務ではないのか。買収価格は売り手の言い値? こんな買収劇がまかり通るなんて、米国の株式市場は高値圏に達したのかも。(松浦肇)

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直接投資受け入れの国防的効用

2012/04/11 08:50

 

 政略結婚や参勤交代をイメージして書かせて頂きました。市場の開放度を示す指標は貿易よりも直接投資のGDP比率の方が正確ではないか、と思っております。

 

【土・日曜日に書く】ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇

 ■米国は慈善団体にあらず

 「なぜ日本を守る必要があるのか、もっと議論すべきだ」。筆者と同世代で旧知の米国人記者が発したつぶやきに驚いた。彼は共和党系で、妻は日本人。東京での特派員経験もある親日家だ。東アジアにおける軍事的緊張を警戒しているくせに、「日本が有事の際に米国の若者が血を流すリスクについて米国の親たちはどう思うだろう」と言い放った。

 「普天間問題か」と聞くと、「それもあるけど…違う」。「米国にとって、日本に対する経済的なステーク(利害)が減っているからね」とドライな答えが返ってきた。

 ◆経営企画と同じ発想

 今月初めに、ニューヨークを訪問したアシュトン・カーター国防副長官は、政府債務削減の一環として国防費に大なたをふるう決意を会見で強調していた。

 米国の利益に見合った分野や地域に予算を再配分する手法は、コストとリターンが物差し。企業の経営企画担当者と発想が同じで、兵站(へいたん)が担当だったカーター副長官の軍事哲学は、米国人記者の「告白」と平仄(ひょうそく)が合う。

 実際、ここ数年、相次いで米国企業が日本でのビジネスを縮小している。

 米国勢では医薬品会社が基礎研究部門を撤退させ、金融機関も香港やシンガポールにアジア本社を東京から移転した。その証拠に、外資系が多い東京の大手町や六本木界隈(かいわい)では、米国人ビジネスマンの姿が目に見えて減った。

 東日本大震災だけが引き金を引いたわけではない。「経済権益」。換言するならば、米国の「投資先」としての日本の“相対的な”地位低下が長期的趨勢(すうせい)となっているのだ。

 オバマ政権は輸出による雇用創出を訴えているが、サプライチェーンが多国籍化した現代において、交易と対外投資はコインの裏表である。1990年代のクリントン政権は、米国を直接投資によるキャピタルゲインや配当収入でも稼ぐ投資大国に変身させ、2000年から10年までの11年間、工場増設といった米国の対外投資フローは毎年12%(複利計算)も増えた。

 ◆財界は日本軽視?

 しかし、その間、対日投資の増加ペースは年7%と平均を大幅に下回った。米ドルに対する円高分を割り引くと年4%増にすぎない。フローで見た場合、長らく日本は米国にとって、アジア太平洋地域ではナンバーワンの投資対象国だったが、09年からは資源ブームに沸くオーストラリアと成長著しい中国に抜かれ、「ナンバー3」の地位が確定した。

 昨年12月にニューヨークで実施した日米財界人会議も分かりやすいリトマス試験紙だった。出席した米企業側の陣容を見ると、日本軽視の姿勢が浮かび上がる。

 日米の経済界トップが経営環境を話し合う同会議。今回のテーマはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)だったのだが、日本からは経団連企業の会長や社長級が出席したのに、米国側からはEVP(執行役)以下や日本法人代表が出席した。会議後にせっかく開いた会見に参加したのは日本メディアのみで、米国メディアはゼロ。質疑応答も日本語だった。

 ジャパン・パッシングの理由は簡単だ。新規に事業を始めるグリーンフィールド投資だろうが、日本企業を買収するM&A(合併・買収)だろうが、米国人にとって日本への直接投資は敷居が高いからだ。企業統治プロセスの不透明さや許認可プロセスの煩雑さに嫌気が差したのだ。

 経営不安に揺れるオリンパスは海外勢に売らない--というのが民主党の方針。一昔前なら米国で大騒ぎになっただろうが、もう誰も驚かない。日本人が同盟国からの資本でも受け入れないことをウォール街はよく知っている。

 ◆直接投資受け入れは国防

 毎年秋に日米の金融関係者が合宿形式で交流・議論する日米金融シンポジウム。筆者も何回か出席したが、驚いたのは、「そんなに文句ばかり言うなら、(米国資本は)出ていけばいいじゃないか」という一部の日本側出席者の発言だった。経済安保の発想が欠落している。

 新技術の創造、雇用機会の創出、人材の流動化、消費者利益の増大といった経済的メリットだけでない。モノだけでなく、ヒトもカネも日本に張らせることで、日本の有事の際には運命共同体に引き込む安保的利点にある。福島原発事故で真っ先にフランス人が逃げたのは、日本への張り方が小さいからである。直接投資の効用は、「質(しち)」。一種の国防なのだ。

 復興支援として、米国から6300万ドルの寄付金がこの1年間で集まったそうだ。「トモダチ、トモダチ」とありがたがるのもいいが、米国は慈善団体ではない。(まつうら はじめ)

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【ビジネスアイコラム】「東北は勝つ、心配しないで」田部康喜

2012/04/09 13:01

 

 朝日新聞の名物論説委員だった田部康喜氏がフジサンケイビジネスアイの1面コラム執筆陣に加わりました。以下が彼の自己紹介を兼ねた最初の原稿です。

 

【ビジネスアイコラム】「東北は勝つ、心配しないで」 田部康喜

2012.4.6 05:00

 東日本大震災から4カ月余りたった昨年7月。北東北の小さな町で開かれた勉強会で、半導体関係の工場の下請けだという経営者が質問した。

 「来年春、アップルがiPad3を発売するらしい、というが本当か」

 新型iPadが発売されたのは3月16日。あの経営者の情報は正しかった。

 東日本大震災によって、東北の先端工場が被災したことによって、自動車や航空機、スマートフォンなどの生産に大きく影響が出た。世界の生産の多くを担っていた、半導体の基盤シリコンウエハーも。

 会津地方で育った筆者は、大学時代まで東北で過ごした。雪に閉ざされて働き場がない年上の従妹(いとこ)たちが信州の精密工場に出稼ぎにいったのは、そう遠くはない1970年代のことである。「東北」をはじめとする地方が、変化を遂げようとしていることを知るのは、バブル経済崩壊後の90年代初めだった。

 新聞記者として社会人の一歩を踏み出し、当時は報道・評論雑誌の編集部にいた。投機の熱狂が失速したとき、もうひとつの日本がみえた。

 日産自動車九州工場(福岡県苅田町)は増設工事によって、92年春には日産最大の工場になろうとしていた。トヨタ自動車が本拠地の愛知県以外では、国内で初めて進出するトヨタ自動車九州(同県宮田町=現宮若市)の操業が始まる直前だった。

 半導体組立工場などの「先端技術型」の新設工場の地方別進出件数は、84年に東北が関東を抜いて首位に立ち、90年まで7年連続してその座を守っていた。

 巨大津波が襲った三陸沿岸から内陸部に目を転じれば、宮城県北部から岩手県南部にかけて、自動車生産基地がその姿を現そうとしている。トヨタ自動車の最新鋭車種である、小型のハイブリッド車アクア」は今年1月、関東自動車工業岩手工場(関自工・岩手県金ケ崎町)で生産が開始された。関自工とセントラル自動車(宮城県大衡村)、トヨタ自動車東北(同大和町)が7月に統合して、トヨタ自動車東日本となる。

 バブル崩壊後から着々と形成されてきた、先端部品の工場群が基盤となっていることはいうまでもない。

 ニューヨークはアメリカではない、という。それにならっていえば、東京は日本でない。

 「失われた20年」は、東京の視点ではなかったか。グローバル時代は、国家間の競争であると同時に、国境を越えた地域間の競争である。「東北」は、アジアにそして、中国にその先端部品の供給において、負けなかったのではなかったか。

 震災地を励まそうと歌われるポップスのなかで、「あなたの夢をあきらめないで」と「愛は勝つ」がある。ふたつの曲のサビの部分を足し合わせていうならば、「東北は勝つ、心配しないで」と。(シンクタンク代表)

 

 

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